アメリカを代表するスポーツウェアブランドであるチャンピオン。その歴史の中で、タグのデザインは幾度となく変更されてきました。古着のマーケットにおいて、タグの形状やロゴのデザインを理解することは、その個体が持つ市場価値を正しく判断するために不可欠なスキルです。
タグを見るだけで、その服が第二次世界大戦前のものなのか、あるいは1980年代のポップカルチャー全盛期のものなのかを瞬時に判別できるよう、主要なタグのディテールを深掘りしていきます。
1. 黎明期の証:1920年代から1940年代のデカタグと初期タグ
チャンピオンの初期、まだ「ニッカーボッカー・ニッティング・ミルズ」と名乗っていた頃から、チャンピオン・ニッティング・ミルズへと社名が変わる時期のタグは極めて希少です。
この時代のタグは、サイズが非常に大きいものが多く、通称「デカタグ」などとも呼ばれます。文字は全て刺繍で表現され、重厚感のある質感が特徴です。1940年代に入ると、現在でもカルト的な人気を誇る「ランナーズタグ」のプロトタイプが登場し始めます。この時期のタグは素材がウールであったり、コットン100%の肉厚な生地に直接縫い付けられていたりと、現代の衣類とは明らかに異なる「道具」としての力強さを感じさせます。
2. ヴィンテージの聖杯:ランナーズタグ(1940年代〜1960年代)
古着ファンが「ランタグ」と呼んで珍重するのが、ランニングしている人のマークが描かれたランナーズタグです。この時期はさらに細かく分類されます。
初期ランタグ(1940年代)
タグの中に「Champion」の文字とランナーが描かれていますが、まだロゴのデザインが定まっておらず、字体もシンプルです。素材はサテン地やコットン地が多く、経年変化でボロボロになりやすいのもこの時代の特徴です。
小文字ランタグ(1950年代前半)
ブランド名の綴りが全て小文字、あるいは最初のCだけが大文字のタイプです。ランナーのマークがタグの左端に配置され、全体のバランスが非常に整っています。
大文字ランタグ(1950年代後半〜1960年代)
チャンピオンの文字が力強い大文字のブロック体に変更されます。この時代のスウェットやTシャツは、生地の質感(吊り編み機による丸胴ボディ)や、4本針による縫製など、最高峰のディテールを備えているものが多く、世界中で争奪戦が繰り広げられています。
3. 黄金期への移行:タタキタグとプロダクツタグ(1960年代)
1960年代に入ると、ランナーのマークが消え、新しいデザインが採用されます。
タタキタグ
リバースウィーブにおいて、四方をしっかりと縫い付けられた(叩きつけられた)長方形のタグを指します。上部に「Champion」の文字が入り、その下にサイズや素材表記が入る非常にシンプルなものです。60年代後半のリバースウィーブに見られるこのタグは、ヴィンテージ・リバースの最高傑作の一つとして、数十万円の価値がつくことも珍しくありません。
プロダクツタグ(通称:C中タグ)
チャンピオンのロゴの中に、小さな「C」のマークが含まれているデザインです。主にTシャツやハーフジップのスウェットなどで見られ、60年代中期の象徴的なディテールです。
4. リバースウィーブの完成:単色タグ(1970年代)
1970年代、チャンピオンはリバースウィーブの素材改良を進め、タグのデザインを一新します。それが「単色タグ」です。
文字の色が「青一色」や「赤一色」でプリントされていることからこう呼ばれます。
- 青単色:コットン90%、アクリル10%の混紡率が一般的。
- 赤単色:主にコットン100%モデルに使用。 この時代のタグは、上部にブランドロゴ、中央にサイズ表記、下部に「MADE IN U.S.A.」の文字が入るという、非常に機能的で美しいレイアウトが特徴です。生地がまだ肉厚で、独特のしなやかさを持っているため、着用感を重視するファンからも絶大な支持を得ています。
5. 多様化の時代:トリコタグ(1980年代)
1980年代になると、タグの色使いが赤、青、白の3色(トリコロール)になります。通称「トリコタグ」です。
この時代の大きな変化は、素材にポリエステルが混紡されるようになったことです。これにより、洗濯後の乾きが速くなり、耐久性も飛躍的に向上しました。 トリコタグにも前期・中期・後期の違いがあります。
- 前期:タグの裏面にケアマーク(洗濯表示)がない。
- 中期・後期:裏面に詳細なケアマークが印字されるようになる。 80年代は、アメリカのカレッジ文化や映画(スウェットを着用するシーンなど)の影響で、チャンピオンが世界的なカジュアルウェアブランドとして不動の地位を築いた時期でもあります。
6. モダン・ヴィンテージ:刺繍タグ(1990年代)
1990年代、タグはプリントから刺繍(正確には織り)へと変化します。通称「刺繍タグ」です。
縦長のデザインで、厚みのあるしっかりとした布地にロゴが織り込まれています。90年代当時は「現行品」として扱われていましたが、生産がメキシコや他の国へ移行する前の「アメリカ製(MADE IN U.S.A.)」の刺繍タグは、現在、急激に価値を上げています。 特に、袖のロゴがつかない「目無し」の個体や、多色使いのラバープリントなどは、90年代ファッションのリバイバルによって非常に人気が高まっています。
7. まとめ:タグは歴史の証言者である
チャンピオンのタグを学ぶことは、アメリカの産業の歴史を学ぶことと同義です。効率化を求めた素材の変化、流行に合わせたロゴの刷新、そしてメイド・イン・USAという誇り。
たった数センチのタグの中に、その服が作られた時代の情熱や技術が封じ込められています。もし手元にチャンピオンの服があるなら、ぜひタグをじっくりと眺めてみてください。そこに刻まれたフォントや色、形から、その服が歩んできた数十年という長い道のりが見えてくるはずです。
知識を身につけることで、ただの古着は「歴史の一片」へと変わります。タグの奥深い世界を知り、より豊かなヴィンテージライフを楽しんでください。

コメント